大判例

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大阪高等裁判所 昭和29年(う)908号 判決

所論は要するに被告人は親子心中を企てハルヱにこれを打明けたところ同人も承諾しその上同人か自ら持ち合せていた手拭をその首に巻き絞殺を被告人に促し嘱託したので被告人においてその手拭の両端を持つて同女を絞殺するに至つたのであり、承諾乃至嘱託による殺人と認定するのを妥当とするに拘らず原判決が普通殺人と認めたのは事実誤認か又は直接の証拠に基かない事実認定である旨主張する。しかし刑法第二百二条の定める「被殺者ノ嘱託ヲ受ケ若クハ其承諾ヲ得テ之ヲ殺ス」いわゆる同意殺人罪たるには犯人の殺意が被殺者本人の嘱託又は承諾のあることに因り初めて生じたときにかぎるものと解すべきであり、本人の嘱託又は承諾に先だち既に犯人においてこれを殺害するの決意を有する場合はその意思実行に際してたとえ本人が嘱託又は承諾に及んだとしても同意殺を以て問うべきでなく、刑法第百九十九条の普通殺人罪の所為が行われたものとして同罪の成立を認定すべきである。本件についてみるに原判決挙示の証拠を綜合すれば原判示事実はすべてこれを認めることができるのであつて、これによれば被告人は判示ハルヱ殺害現場に到る以前、同女を家から連れ出すときより既に同女殺害の決意をなしていたことが明白であるから、その後右現場においてハルヱが被告人に対し早く殺してくれといいながら自ら所持していた手拭を首の前から後へ廻した所為に及んだことが所論被告人の検察官に対する第一回供述調書により窺えるところであるけれどもそのような事跡があつたからとて叙上説明に照し普通殺人罪の認定を妨げないものというべきである。のみならず前示刑法第二百二条にいう被殺者の嘱託又は承諾の有効なるがためには普通の事理弁別の能力を有する状態においてこれがなされることを要し、かかる能力のない者のなした嘱託又は承諾は有効に成立しないものと解すべきであつて、原判決の証拠によればハルヱは小さい時から頭か悪く医学上の痴愚に近いような精神状態の者であつたことが明白である。従つて同女は精神障碍により普通の事理を弁別するの能力を欠いていた者と認むべく同女のなした所論言動によつて本件殺害行為につき法の定める嘱託又は承諾があつたとは到底認めることができない。以上いずれの見地から観察しても、本件を嘱託又は承諾による殺人行為と主張する所論は採用し難く、記録を精査しても原判決に所論のような違法は存在しないから論旨は理由がない。

(裁判長判事 吉田正雄 判事 山崎寅之助 判事 大西和夫)

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